あるふたりの曲
2017年9月6日。
まだ暑さも残る、残暑と言えるこの日に、新潟県上越市出身My Hair is Badのシングルが発売された。
タイトルは『運命/幻』。
「別れ」を飲み込み、新たな「始まり」へと進もうとする『運命』の彼と、優しい彼が夢に出てきてしまうぐらい未練のある彼女。登場人物はこの男女ふたり。
<偶然だった最後の最後であの日と同じ服/僕は遅れて行った/見慣れない短い髪だった/気不味くて珈琲で流し込んだ/でもなぜか味がしなかった/沈黙が続いていた/その瞬間僕は悟った>『運命』
まるで短編小説を読んでいるような、ショートフィルムが脳内で流れるような。遅れて店に入って来た彼も、彼が来たことに気づいて顔をあげる彼女の短い髪が揺れる姿も、いとも簡単に頭の中で映像化できてしまう。珈琲の苦さでさえも舌に感じる。マイヘアの曲は聴き手自らが経験したはずのないフィクションを脳内再生させてしまう。
<きっと終わりだった/ずっと分かっていた/ついにエンドロールだった>『運命』
この別れは決められた運命だと、次に進むために終わりを納得するために自分に言い聞かせるような言葉たち。
もう彼の中では終わっている。関係も彼女への気持ちも、もう終わってしまっている。
<指に触れるだけで胸が高鳴ってた>あの頃のふたりはもういない。
<何かの始まり>に向かって振り返ることもなく歩き出した彼。
それに対して、まだ「あの頃」のふたりを思い出している彼女。
怒鳴り合った喧嘩も、悲しさでさえも、夢の中では美化されて優しいものになる。
<あの日みたいに笑ってた/あの時みたいに話してた>
<こうして二人でいるとさ/時間が戻ってくみたいだね/「もしもあなたが嫌じゃなきゃもう一度」/そう言うと笑ってた>『幻』
それもこれも、全て彼女の夢で、幻だ。
それでもあの日わざと指輪をして会いに行ったんだ。なにか言ってほしくて。でも彼は気付いてくれなかった。
本当は、言わないだけで彼は気付いていたのに。
そこからふたりがもう元には戻れないぐらいにすれ違ってしまっていることが分かる。
道の違えたふたりの、二曲で10分にも満たない短い話。
しかしこの二曲は、マイヘア史上この先ずっと残っていく名曲だ。
今この文章を書きながら時計をチラリと見た。
<そう言えば もう朝だ>
大人になれないひとたちへ
22歳になった。決して子供とは言えない年齢。だからって大人だと胸を張れるわけじゃない。ちゃんとしよう、だって大人だから、でもまだ若いからやりたいことやってたい。
不安も迷いもあって夢だけ語ってても生活できない現実。毎日毎日何か得体の知れないものに追われているような恐怖。そしてなにがこわいって、こういうギラギラした年下が現れることだ。
「Shout it Out」
その名前を知った当時わたしは大学生でCDショップでアルバイトをしていた。「未確認フェスティバルグランプリ」と紹介文には書かれてあった。ひねくれ者のわたしはこういう賞を取ったとか大物アーティストがプロデュース、みたいな類を敬遠しがちだった。今思えば本当に良くない、勿体無い行為だ。
シャウトの名前で検索すると、その当時まだ十代でしかもわたしより年下。ふーんまあキラキラしてていいんじゃんぐらいにしか捉えていなかった。たぶん、ひとつしか歳の変わらないのにしかも年下なのに自分の好きな音楽やってキラキラとしているのが羨ましかったんだと思う。だからそのときは見つけたのに、見えないフリをした。
数年経ったある日。
わたしは動画サイトでシャウトを検索していた。
そのときのシャウトは元いたメンバーがふたり脱退してボーカルとドラムのふたりになっていた。それでも続けるという選択をした彼ら。ちょっと聴いてみよ、そんな程度の気持ちで再生ボタンを押した。
<白いシャツが風に揺れている/青葉のように僕ら息吹いている/校庭に咲いた花が茜に染まる/見慣れた家路四つ踵を鳴らす>
『17歳』
青々しいワードたち。若いなあ、爽やかだなあ。初めに聴いたときはそのぐらいにしか思わなかった、のに。ずっと耳にこびりついていた。頭から離れなかった。ふとした瞬間サビを口ずさんでいた。あれ、もしかしてわたしこの曲好きなんじゃないか?そう思っていたら毎日聴いていた。
<大切なのは周りの目なんかじゃ無いだろう/卑怯に世の中を渡って自分を偽るくらいなら/丸腰でも不格好でもいいんだよ/いつか褪せるのなら君よ美しくあれ>
あまりにも直球な歌詞に、身体の真ん中を撃ち抜かれたような感覚。毎日聴いてリピートして、歌詞を覚えてしまった。
あれもしかしてわたし、シャウト好きになったんじゃないか?
自分の気持ちに気づいてしまった。「好き」の原動力は凄まじい。気づいたときにはCDショップで彼らのアルバムを買っていた。
そして今年の8月。
遂にシャウトのライブを見ることができた。
「大阪!堺!Shout it Out始めます」
ギターをかき鳴らしながら山内(Vo/Gt)が叫ぶ。
一曲目、わたしにとって初めてのシャウトのライブは、毎日毎日聴いて来た『17歳』から始まった。
<言葉を吐けば宙を舞う嗚呼なんて生きづらい世界だろう/アンタの言う「勝ち組」ってなにに勝てばそれを名乗れるの?>
こちら側を指差して、そう歌ったその目は真っ直ぐこちらを見据えていて、なんだかギクリとした。心の内に秘めていることを当てられた気分だった。
ライブも終盤に入ると、山内が口を開く。
「やらなきゃいけないことが書かれた紙があって。生活のなかで、ひとつひとつ、その項目を消していく。消していってもまた増える。でもライブハウスにいるときぐらいは、その紙を一旦置いといて、明日からまた向き合えたなら、ライブハウスって、音楽っていいなってそう思えたらいいと思います」
その瞬間肩の力がすっと抜けた。外のことも、生活のことも、一旦置いておくどころか忘れていた。頭のなかから吹っ飛んでいた。目の前でライブをしている彼らしか見えていなかった。
あの頃想像していた二十代とは全く違うけれど。それでも選択をして、この足で進んで来た。迷うこともあるけれど、不安なんて毎日ついてくるけど、それでも進んでいこう。生きていこう。
その日はShout it Outに背中を押された。
まだまだ青い。「大人」になりきれないクソガキだ。歳を重ねて言い訳を増やすより、今胸を張ってキラキラしていたい。
シャウトよ、わたしよ、
「美しくあれ」
くそくらえの真実
思えば初めて会ったときに、このひとのこときっと好きになるんだろうなって思った。
話してみたら好きなものがいっしょでより一層魅力的に見えて、この時間が終わるなと願った。
会えるのが楽しみで、服にも化粧にも気を遣ったり。
普段は名字で呼ぶくせに、ふたりのときは下の名前で呼んでみたり。
だから「嫁がこのバンド好きでさ、」なんて聞きたくなかった。ずっと知らないままがよかった。そこでやっと気づいた。自分が思ってるよりこのひとのことが好きになっているという事実に。
現在深夜3時過ぎ。
「レペゼンポップミュージックフロムトーキョージャパン」と名乗るあのバンドが画面の向こうで話している。
このアルバムが一番好きだってそう言ってこの曲を流していた。
わたしの前で嫁の愚痴を先輩に語るぐらいなら、わたしのこと好きになってよ。わたしにとって大切なひとになってよ。わたしのこと、大切にしてくれよ
ケラケラって笑うあの声に捕らえられて泣きそうだ。
↓歓びの明日に/SUPER BEAVER↓
ロックバンドの時間だぞ〜ある日の下北沢、ハルカミライ〜
その日の目当ては別のバンドだった。
そのバンドのライブがおわると、少し緊張がとけてお酒をぐびぐび飲んだ。
帰りも雨かなあ、嫌だななんて考えながらボーっと突っ立っていた。
すると現れた本日のトリ、ハルカミライの登場。
そういえば初めて見るな、って余裕に構えていた。
「ロックバンドの時間だぞー!!!」
その声を聞いたその瞬間、つま先からビリビリッとなにかが上にあがってくる感覚。
なんだこれ。なんだ、これ。
棒立ちだった足がいつの間にか動いて前に進んでいた。両の目がステージに釘付けになった。
いっきまーす!!という叫びで、“君にしか”のサビをそこにいた全員が大合唱。拳をあげて、
身体がカッと熱くなった。
たぶんこれはお酒のせいじゃなく、今目の前でライブしてるこのひとたちのせいだ。
「今日俺たちがなにしに来たかわかるか?!」
「俺たちは金儲けをしに来た!宣伝をしに来た!…ぜんっぶ嘘です!名曲を歌いに来た!」
今までいろんなバンドの、いろんなライブを見た。その度様々な感情を抱いた。
でもこれは。このひとたちのライブは。
うまく文字に起こせない。
大砲を身体の中心にドーンッてくらったような。
ただ、ただ胸のドキドキが止まらない。
本当に凄いものを見たときは、言葉になんて出来ないってこういうことなんだと思った。
<君には全てをあげるよ >
<だから君の全てをくれよ>
なんて歌詞の“ラブソング”という名の本物のラブソング、どうしようもなく愛しいという感情を抱かずにはいられない。
「見逃すなよー!!」
なんて言っていたけど、見逃すどころか目が離せない。
外の雨のことも、生活のことも、一旦置いておくどころか忘れていた。
ただ、目の前の彼らのライブしか見えていなかった。
紛れも無い「ロックバンド」のライブ。
その目撃者になれた。
また忘れられない日が増えた。
帰りの下北駅でも、ドキドキは鳴り止まなかった。
イヤフォンを耳にあてて、数十分前に思わず涙が出てきてしまった曲を流す。
<ねえサテライト見つけてほしい 私のことを分かってほしい>
口ずさみながら帰り道を歩く。
そういえば、いつの間にか雨はあがっていた。
青春になりたくない -2月11日04 Limited Sazabys 武道館公演-
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時間は既に開演5分前。駅から会場までの道を全速力で走っていた。
なんでこんな日に、こんな大切な日に遅刻するんだと泣きたくなった。
浮かれて青山でお茶でもしようとのんびりしていて、気づいたら開場時間になっていた。
日頃の運動不足が祟って息切れする。足が重い。でもどうしても。今日だけは、走らなきゃだめだ。
ヒイヒイ言いながら到着。チケットを交換して勢いよくドアを開く。聞こえてきたのは何度も聴いてきたあの曲だった。
<いつから悲しいとか優しいとか涙の口実 君以外に何を取る いつかが正しいとか悔しいとか涙の抗議中 君以外に何を望む>
一曲目、“monolith”。
あの4人が日の丸の下で、ライブしてる。
本当にこんな日に立ち会えるなんて。
2017年2月11日。04Limited Sazabys初の武道館公演。
わたしにとっても武道館でのライブを見るのは初めて。初めての武道館は彼らのライブだと決めていた。
「名古屋のライブハウスから来ました!04 Limited Sazabysです!」
GEN(Bass/Vocal)の言葉に湧き上がる歓声。
この日この場所を選んで集まった多くのひとびと。こんなにたくさんのひとたちが、この4人のライブを見るためだけにここに集まっているんだと思うと、喉がくっと締まって胸が熱くなった。
“fiction”、“escape”の連続攻撃、RYU-TA(Guitar/Chorus)の「フォーリミ!フォーリミ!」「日の丸!日の丸!」の掛け声から始まった“Chicken race”等々、最新アルバムからはもちろん、“bless you”など懐かしい曲、アンコール、ダブルアンコールを含め全33曲。
「チームフォーリミの技術の結晶の日だからさ、みんな俺たちから目を離さずに、俺たちの輝いてる瞬間を見逃すな」
とGENの言葉から間髪入れずに“Grasshopper”。
<明日の自分はどうだ>
と曲のワンフレーズがンバーの背景に映し出される、たまらない。
曲ごとに照明も背景の映像も変わっていて、こういう大きな舞台だからこそできることだ。
急に静まった会場に流れる今日までの過去のライブ日程と映像たち。
そして日付けが『2017.0211』と表示されると、HIROKAZ(Guitar)の演奏とGENのアカペラで始まった“Buster call”。
どんなステージでも、例えそれが日本一敷居の高い体育館でも、普段のスタイルが全くぶれることなく、こんなところで止まらないもっともっと幸せになりたいという彼らの貪欲さが伝わるライブ。
そんな彼らから一瞬たりとも目が離せない、離したくない時間。
「俺たちはみんなの青春になりたくない。みんなと一緒に歳をとりたい。」
「できれば!一生一緒にいたい!」
その日、日本一の武道の聖地は、間違いなくライブハウスと化していた。
名古屋のライブハウス出身04 Limited Sazabys。
彼らにはいつまでも光を照らし続けるバンドであってほしい。
ただ、ただ、先へ、進め。
猛暑、灼熱のライブ
8月13日HEY-SMITH“Let it Punk TOUR”
@Zepp名古屋 w/04 Limited Sazabys
8月。その日の名古屋は痛いぐらいに日差しが強くて、ドロドロになってしまいそうな猛暑。
そんな日に、Zepp名古屋では燃え滾るようなライブが開催されていた。
7月から始まった“Let it Punk TOUR”もいよいよ5本目。
ツアーも終盤に差し掛かった名古屋での対バン相手は、今や名古屋のヒーロー04 Limited Sazabys。
フォーリミのホーム、愛する名古屋のパンッパンのフロアを前にGEN(B/Vo)が
「名古屋代表!04 Limited Sazabysです!」
と叫ぶ。その姿はまさにヒーロー、大きな歓声と次々とあがる拳。
一発目、なにが来るかと待ち構えていたらなんと2ndフルアルバム『eureka』より“Feel”。全く予想していなかった一曲目。予定調和をぶち破る、これがフォーリミのライブの魅力だ。
「ツアーだからってお祝いの花を添えるつもりはない、ヘイスミを倒しに来た!」
と、ヘイスミへの戦線布告に会場が湧く。
そうやって噛みつきつつも、「YON FES(フォーリミ主催)を初めて開催するとき、一番に猪狩さんに相談した」「ヘイスミかっこいいんすよ、ずっとかっこいい兄さんです」と、リスペクトの言葉を述べた。
ラスト“monolith”が終わると、「やっぱ最後もう1曲やるわ!」と間髪入れず、定番のアカペラなしで“Buster Call”。始まった瞬間、クラウドサーファー続出。
やはり名古屋でのフォーリミはひと味違う。
ホーム名古屋でパワー全快のライブをやりきり、先輩へとバトンを繋げた。
いよいよ本日の主役、HEY-SMITHの出番。
昨年リリースした4thアルバム『STOP THE WAR』より“Instream”が流れ始め、ステージバックにメンバーたちが映し出される。
メンバーたちがステージに登場すると、待ってました!とばかりに湧き上がる歓声。ステージ前へとひとがなだれ込む。
会場の熱気アッツアツのなか、1曲目は3rdアルバム『Now Album』より“Living in My Skin”。
「安心してください。貴方達の前にいるのは本物のパンクロックバンドです。」
と、言い切る猪狩(Vo/G)。
その言葉通り、ヘイスミのライブは一切の手加減なし、全力でパンク。
“Let it Punk”では会場中がパンクムード一色。
<Hey! One day you will die Just get it And make it>
というフレーズがたくさんのつきあがる拳のなか歌われた。
この日は『Let it Punk』からはもちらん、“Go Back Home”、“No Worry”など2ndアルバム『Free Your Mind』からふんだんに曲が盛り込まれていてファンには堪らないセットリストだ。
モッシュやダイバー続出のなか、それでも笑顔になってしまうのはヘイスミのライブの魅力のひとつだが、猪狩の言葉も大きな要素だと思う。
「しんどくなったらライブハウスに来い!なんかキラキラしたもの見せたげるから!」
「自分の好きなように遊んで帰れよ。隣のやつがどう思おうが、おまえの人生になんも影響ないからな」
この言葉で今日この場所この時間に自分はライブをたのしみにきたんだ、とハッとさせられる。
ライブも終盤、夏の曲やります!と“Summer Breeze”。もうすぐ終わる夏に想いを馳せ、会場に少しだけ涼しげな風が吹いた気がした。
そこからはもう止まらない。
ヘイスミの熱気に煽られ、ライブが終わってもなお会場からは「ワンモア!」の嵐。
その期待に応え、23曲やったにも関わらずアンコール!さらにダブルアンコール!
ダブルアンコールでは「フォーリミと出会ったころの曲します!」と、1stミニアルバム『Proud and Loud』より“Longest day”。
そして本当に最後、ラストでは“come back my dog”。フロアにいくつものサークルモッシュが出現。踊れ!という叫びで会場中がステップの嵐、その日一番の熱気だった。
名古屋、いや日本で一番熱い夜。
染みついた音楽の底知れぬたのしさは、汗なんかじゃ落ちないんだ。
↓載せていただきました。↓
http://ongakubun.com/archives/1478
しょうもないけど愛しくて
もう恋なんてうんざりだ。誰かを好きになって傷つくなんてもうまっぴらだ。
そう思っていたはずなのに、またひとを好きになる。
こうやってきっと繰り返す。
そうやって歳を重ねていく。
ちゃんとしなきゃと思う自分と、大人になんてなりたくないと駄々をこねる自分。
クソガキの主張を聞いてくれ。
大人になりきれないオトナの話を聞いてくれ。
この一枚を手にとって、その耳で聴いてくれ。
本当の話を聞いてほしい。
<恋もなければ愛もない しょうもないけど愛しくて>
思わず口ずさんでしまうワンフレーズ。
あの夜のことも、台所の換気扇の下でいっしょに吸ったタバコも、確かにあのときはわたしだけに向けられていた笑顔も。
もうないけれど、失くしてしまったけど、確かに愛していた。
ほんとにしょうもない人生だな。
でもそんな自分が一番かわいくて愛しい。
群馬県発、FOMARE。
彼等にとって初の全国流通盤。
『stay with me』
¥540で変わる、今の視界。
ひとを好きになることは、そんなに悪いことじゃないかもしれない。
↓stay with me/FOMARE↓