お米ハン

ご飯のお話ではないです

あるふたりの曲

201796日。

まだ暑さも残る、残暑と言えるこの日に、新潟県上越市出身My Hair is Badのシングルが発売された。

タイトルは『運命/幻』。


「別れ」を飲み込み、新たな「始まり」へと進もうとする『運命』の彼と、優しい彼が夢に出てきてしまうぐらい未練のある彼女。登場人物はこの男女ふたり。


<偶然だった最後の最後であの日と同じ服/僕は遅れて行った/見慣れない短い髪だった/気不味くて珈琲で流し込んだ/でもなぜか味がしなかった/沈黙が続いていた/その瞬間僕は悟った>『運命』


まるで短編小説を読んでいるような、ショートフィルムが脳内で流れるような。遅れて店に入って来た彼も、彼が来たことに気づいて顔をあげる彼女の短い髪が揺れる姿も、いとも簡単に頭の中で映像化できてしまう。珈琲の苦さでさえも舌に感じる。マイヘアの曲は聴き手自らが経験したはずのないフィクションを脳内再生させてしまう。


<きっと終わりだった/ずっと分かっていた/ついにエンドロールだった>『運命』


この別れは決められた運命だと、次に進むために終わりを納得するために自分に言い聞かせるような言葉たち。


もう彼の中では終わっている。関係も彼女への気持ちも、もう終わってしまっている。

<指に触れるだけで胸が高鳴ってた>あの頃のふたりはもういない。

<何かの始まり>に向かって振り返ることもなく歩き出した彼。


それに対して、まだ「あの頃」のふたりを思い出している彼女。

怒鳴り合った喧嘩も、悲しさでさえも、夢の中では美化されて優しいものになる。


<あの日みたいに笑ってた/あの時みたいに話してた>

<こうして二人でいるとさ/時間が戻ってくみたいだね/「もしもあなたが嫌じゃなきゃもう一度」/そう言うと笑ってた>『幻』


それもこれも、全て彼女の夢で、幻だ。

それでもあの日わざと指輪をして会いに行ったんだ。なにか言ってほしくて。でも彼は気付いてくれなかった。


本当は、言わないだけで彼は気付いていたのに。


そこからふたりがもう元には戻れないぐらいにすれ違ってしまっていることが分かる。


道の違えたふたりの、二曲で10分にも満たない短い話。

しかしこの二曲は、マイヘア史上この先ずっと残っていく名曲だ。


今この文章を書きながら時計をチラリと見た。


<そう言えば もう朝だ>